最高裁判所第一小法廷 昭和59年(オ)208号 判決 1984年10月04日
上告人
片木敏夫
右訴訟代理人
藤原達雄
被上告人
津畑産業株式会社
右代表者
津畑尚明
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人藤原達雄の上告理由第一及び第二について
所論の点に関する原判決の趣旨とするところは、上告人は、訴外健和産業株式会社(以下「健和」という。)の取締役として、その代表取締役請川武の職務執行を監視し、違法行為を防止すべき義務を負つていたにもかかわらず、右義務を尽くすどころか、かえつて健和の倒産が不可避であることを予測し、株式会社片木アルミニューム製作所の健和に対する五〇〇〇万円以上の債権を本件二隻の輸出代金から全額一挙に回収しようと考え、このような回収方法をとるときには本件二隻の輪出に関し回航料金債権を取得する被上告人がその弁済を受けることができなくなることを十分予想しながら、あえて健和の代表取締役請川をして被上告人と本件二隻の輸出先への回航に関する契約を締結させ、被上告人に右回航をさせて回航代金相当の損害を加えたとし、上告人の右の違法行為が健和の取締役としての職務の懈怠にあたるというにあることは、判文上明らかであり、右の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。上告人の監視義務懈怠に関する所論の原判示部分は、措辞に適切さを欠くところがあるが、その趣旨は右に説示したように解されるから、原判決に所論理由不備、理由そごの違法はなく、その余の所論は、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決の結論に影響のない事項についてその違法をいうものにすぎない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第三及び第四について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はなく、右事実関係のもとにおいて、上告人が被上告人に対して賠償すべき損害額を定めるにあたつては被上告人にも一割の過失があるから右の限度で過失相殺をするのが相当であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の自由裁量に属する事項についての違法をいうものにすぎず、いずれも採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(矢口洪一 藤﨑萬里 谷口正孝 和田誠一 角田禮次郎)
上告代理人藤原達雄の上告理由
第一 原判決は、その理由に次のような齟齬ないし不備があるから民事訴訟法三九五条一項六号に該当し、破棄されるべきである。
一 原判決は理由一において、「当裁判所も、控訴人が健和の取締役としての監視義務を怠つたことにより商法二六六条の三第一項に基づき被控訴人の被つた損害のうち本件二隻の回航代金の支払いを受けられなくなつたものと認定判断するものであつて、その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決の理由一、二に説示のとおりであるからこれを引用する。」としている(同判決書八枚目表五行目から一〇行目)。
1 しかし、右付加訂正された分には「監視義務を怠つた」ことを認めうる理由の記載がない。また、右引用された第一審判決の理由には、
「右事実によれば、被告は、片木アルミと健和との密接な関係から、健和の業務部長浅野義一より健和の財務状態を知らされ、その経営内容を知悉し、昭和五五年六月初めころには、早晩健和の倒産が不可避であることを予測し、片木アルミの健和に対する従前の五〇〇〇万円以上に達する累積債権を健和の本件二隻の輸出代金中から全額一挙に回収しようと考え、このような回収方法をとれば、本件二隻の輸出に関して回航料金債権を取得する原告やその他の債権者が右輸出代金からその債権弁済を得ることが不能となり、健和の経営状態からみて結局右債権の弁済を得られなくなることを十分予想しながら、あえて、一方では片木アルミの取締役松崎利治を通じて健和の代表者清ママ川に本件二隻の輸出に伴う本件二隻の輸出先への回航に関する契約を原告と締結させ、他方では右輸出に関するL・Cを健和より片木アルミに譲渡させ、これを取引銀行泉州銀行泉南支店で買取つてもらつてその代金を片木アルミの口座に入金させ、その入金中から右輸出に関して貸与した金額のほかに従前からの片木アルミの健和に対する五〇〇〇万円位の累積債権全額を相殺により他の債権者に優先して一挙に回収し、その結果原告が右輸出代金中から本件二隻の回航代金一二八八万円(原判決により一二九三万二四八〇円と改められた。以下同じ。)の支払を受けることを出来なくさせ、原告に右金額相当の損害を蒙らせたものと認められる。
そうすると、被告は、健和の取締役としての職務を忠実に遂行する義務があるのに、もつぱら片木アルミの代表取締役としての立場においてその利益のためのみに行動し、原告に対して一二八八万円相当の損害を蒙らせた(健和の破産の結果少くとも右金額の回収が不能となつたことは弁論の全趣旨により明らかである。)もので、右損害は被告の健和の取締役の職務を行うについての悪意又は少くとも重大な過失によつて生じたものと認めるのが相当であるから、原告は、被告に対し、商法第二六六条ノ三第一項による損害賠償として、一二八八万円の支払を求めうるものというべきである。」(同判決書一二枚目表八行目から一三枚目裏二行目まで)との判示がある。
以上の判示は、その文言から明らかなように、被告(上告人)を主語とし、後記第四にあげたような誤認事実ないし曲解(その最たるものは、「片木アルミの取締役松崎利治を通じて健和の代表者請川に本件二隻の輸出に伴う回航契約を原告(被上告人)と締結させた」である)を含め、すべて上告人自らの行為として上告人に責任が及ぶように列挙したうえ、上告人は、健和の取締役としての職務を忠実に遂行する義務があるのに、もつぱら片木アルミの代表取締役としての立場においてその利益のためのみに行動し、被上告人に対して一二八八万円相当の損害を被らせたもので、右損害は被告の健和の取締役の職務を行うについての悪意又は少なくとも重大な過失によるものである旨断定しているのであつて、健和の取締役として、その代表取締役に対する監視義務を怠つたことによるものと解する余地のないものというべきである。そうだとすると、原判決は監視義務を怠つたという理由のない第一審判決をそのまま引用して監視義務を怠つたというもので、理由に齟齬がある。
2 監視義務を怠つた取締役の第三者に対する責任は、監視されるべき取締役の職務執行に悪意又は重大な過失すなわち違法行為がなければならないと解すべきところ(大阪高裁昭和五三年四月二七日判決、判例時報八九七号九七頁)、原判決及びその引用する第一審判決の理由中にも、健和の代表取締役請川に右のような違法行為のあつたことを判示した部分はない(事実、同人には、姜との関係で約一億円余の損害を受けた(原判決理由一の3、第一審判決理由二の2参照)ほかに、特に経営上の失敗といえるほどのものはなかつたと思われる)。第一審判決中それらしいものとみられるのは、同判決理由二4のうち、「健和の代表者請川は本件二隻の出航後も原告に対し右輸出に伴うL・Cの現金化ができない旨虚偽の事実を話して支払いの猶予を求めて回航を継続させていた。」とある部分である(同判決書一一枚目表二行目から五行目まで)。しかし、本件二隻の出航(昭和五五年七月一一日であることは同判決理由二3に認定されている)後の右請川の言動は、その時期と言動そのものからみて上告人の監視義務の対象になるものとはいえず、他に右請川に前記悪意又は重過失があつたとみられる業務執行を認める判示はない。そうすると原判決の理由に右1と同じく齟齬があるというべきである。
3 そもそも、本訴における被上告人の主張立証の主対象は、「上告人が健和の取締役でありながら、忠実義務に違反し、自己が代表取締役をする片木アルミの健和に対する貸金債権の回収のみに意を注ぎ、その結果健和を破産させたため、被上告人が健和に対して有する回航代金債権の弁済を受けることができなくなり、同額の損害を被つたとして、上告人にその損害賠償を求める」点にあり、健和の代表取締役請川の業務執行につき悪意又は重大な過失があつたこと、従つて取締役である上告人や訴外橋本時一(右請川の妻の実父で健和の資金、経理両面の担当者)の右請川に対する監視義務違反のあつたことを追求するものでなかつたことは、本訴において右請川や橋本が訴訟の相手とされていないことによつても認められるところである。
右の点は被上告人の主張自体からも裏付けられる。すなわち、被上告人は昭和五七年七月二日付準備書面二(二)の(5)において、本件は上告人自身の業務執行によるものであることを重ねて主張したうえ、「万一、上告人自身の業務執行に該当しないとしても、その時は前述した、注意義務違反行為に当たる行為を請川が代表取締役として行つたことを十分監督して防止することを怠つたことになるだけである。そして、その過失の内容、原因、損害との因果関係は、特に論ずる要もないほど明確であろう。」としている(なお、被上告人が準備書面で上告人に監視義務違反があるといつているのはこの部分だけである)。また、昭和五八年二月二四日付準備書面二の(八)において、「上告人は単なる名目上の取締役ではない。浅野、松崎を使つて自ら違法行為を行なつたのである。」とも述べている。
二 原判決及びその引用する第一審判決には監視義務の内容、上告人の違反の態様について何らの判示をしていないから、監視義務を怠つたという原判決は判決に理由を付さなかつたか、理由不備のものというべきである。もつとも、原判決理由二に、「片木アルミの債権回収行為、したがつて健和の取締役としての控訴人の監視義務の懈怠」という文言がある(同一〇枚目裏一、二行目)。しかし、前述のように、健和は一億円余の回収不能代金を生じて資金繰りに行き詰り、他に提供する担保もなかつたので、やむなくL・C担保として片木アルミから事業継続のための資金援助を受けようとし、片木アルミも後述のとおりやむなくそれに応じ、L・Cが銀行に買い取られたとき、それによつて右貸借関係の清算をした本件のような場合、そのことをもつて違法行為といえないものと解すべきであるが、仮りに、片木アルミの右回収行為が違法であるとしても、直ちに、それに応じた健和(請川)にも違法行為があつたといえないから、回収行為の違法を判示しただけでは右にいう監視義務の内容及びその懈怠の態様について判示しているとはいえない。
三1 原判決の引用する第一審判決理由二4では、「被告は、健和の本件二隻の輸出によるL・Cを輸出資金貸付の担保として健和から片木アルミに譲渡させた」との事実を認定している(同判決書一〇枚目裏七行、八行目)。被告はとある点は片木アルミの代表者被告はと表現されるべきである点はともかくとして、L・Cを担保として輸出資金を貸付けたことを認めている。輸出先は政情不安なバングラデシュであり、L・Cそのものも確実に現金化される保証はないが、ともかくL・Cを担保にして多額の融資をしたのであるから、L・Cが銀行に買取られたとき、片木アルミは担保権者として当然買取代金と貸付金とを相殺する権利があるというべきであり、従つて、右相殺により仮りに一般債権者が健和から債権の弁済を受けられなくなつたとしても、右相殺をもつて違法不当なものということができないはずである。しかるに、原判決及びその引用する第一審判決では、何らの説明もなされないまま、あたかも片木アルミの債権は被上告人の債権を含む他の一般債権に劣後するかのような結論が導き出されている。この点も理由に齟齬があるといわねばならない。
2 原判決の引用する第一審判決理由二4で認定された事実によつても、本件二隻のL・Cの買取代金からまず売主(健和に対する債権者)に支払われ、残金一億二八四八万余円より片木アルミの貸付金債権(なお、右一1に引用した第一審判決のいうように、うち五〇〇〇万円以上が累積債権であるといえないことは原審で取調べられた甲第一九、二〇号証の各一ないし七、乙第四号証によつても認められる)が相殺されてもなお六〇〇〇万円余の残金のあることが推測され、原審においては本件L・C買取代金中計金六二三〇万余円が健和に返金されていることが明らかになつた(甲第一九号証の五、第二〇号証の六、乙第三号証)にもかかわらず、両判決ともこの点についてはふれていない。しかも、片木アルミは右相殺後も約一四〇〇万円余を健和に貸付けたことは第一審判決理由二6で認定されたとおりである。右のとおり、債権回収後健和に返還される残金や、その後の片木アルミの健和に対する貸付の意向などを全く無視したまま、前記一1に引用した第一審判決は、「このような回収方法をとれば、本件二隻の輸出に関して回航料金債権を取得する原告やその他の債権者が右輸出代金からその債権弁済を得ることが不能となり、健和の経営状態からみて結局右債権の弁済を得られなくなることを十分予想しながら、あえて、……」と判示している。しかし、右返金された金六二三〇万余円だけでも本件二隻の回航料残金債権額の約五倍、後記のとおり、回航契約上当然支払いの予定される出航時支払分金四八三万円を差引くと約7.8倍にもなることや、本件二隻の輸出に関する債権者は被上告人を含め四社で、その未済債権総額は計金三四四七万余円であり、それが立証されているという第一審での被上告人の主張のあつたこと(被上告人の昭和五七年七月二日付準備書面一の(六)、三(証拠評価)の二)などからみても、果して右のように、「債権弁済を得ることが不能となり」とか、「結局右債権の弁済を得られなくなる」といえるかどうか、従つて、それを「十分予想しながら、あえて、……」といえるものかどうか、判文上だけからでも容易に首肯しがたいものがあり、この点にも、本件の結論を左右する重要な理由について不備があるというべきである。
3 前記一1に引用した第一審判決は、「被告は――中略――原告に対して一二八八万円相当の損害を被らせた(健和の破産の結果少なくとも右金額の回収が不能となつたことは弁論の全趣旨により明らかである。)」と判示する(同判決書一三枚目表五行目から一〇行目)と同時に、同判決理由三によると、「原告の健和に対する債権の回収が不能となつたのは健和の破産の結果であるところ、前記二で認定した事実によると、健和は、昭和五五年六月当時すでに資金繰りが行詰り、片木アルミによる債権回収がなかつたとしても、片木アルミの資金援助が打切られれば早晩倒産に至る状況にあつたもので、必ずしも片木アルミの前記債権回収行為によつて破産の結果をきたしたものと認めることはできない」と判示している(同一三枚目裏九行目から一四枚目表三行目)。なお、この点は、「健和は、同年(五五年)二月ごろ、姜との間に紛争を生じ、妻に対する売掛金四五〇〇万円以上の支払が滞つた」という第一審判決の事実認定が、原判決により、「健和は昭和五四年一〇月ごろ、姜との間に紛争を生じ、姜に対する売掛金一億円余の回収不能代金を生じた」と改められた(原判決理由一の3)ことにより、一層強くいえるものと解される。原判決も理由二で片木アルミの債権回収行為と健和の破産との関係については第一審判決と同旨の判示をしている(同判決書一〇枚目表七行目から一二行目)。
これを要約すると、本件二隻の回航料残金の回収不能は健和の破産によるものであるが、片木アルミの債権回収行為によつて破産の結果をきたしたものと認めることができないというにある。してみると、当然片木アルミの債権回収行為と被上告人の右回航料残金の回収不能との間には因果関係がないという結論になり、被上告人の請求は棄却されるべきところ、判決は右と異なる結論を導いている。よつて、その理由に明らかな齟齬があるというべきである。
第二 原判決には次のとおり上告人の主張に対する判断をしていない違法がある。
1 上告人は、「本件状況のもとでは、上告人に片木アルミの債権回収行為を思いとどまることを期待できなかつた、いわゆる期待可能性がない」と主張していた(上告人の昭和五八年六月一六日付準備書面二1)が、原判決はこの点について判断していない。
上告人は健和の代表取締役請川との個人的な情宜から、懇請されるまま、その窮状を救うため、自己が代表取締役をしている片木アルミから、銀行で融資を受けた資金を貸付けて援助し、あるいは片木アルミの銀行に対する信用を利用させた(依頼者の信用がなければ銀行はL・Cを買取らない)ものである。もし、本件貸付債権の回収ができなかつたと仮定すると、それでなくても不況業種のアルミ圧延業を営む資本金六〇〇〇万円の片木アルミが約六〇名の従業員をかかえて倒産するおそれが十分あつたのである。
2 原判決のいう監視義務の内容は不明であるが、これを一般的な取締役会を通じての監視義務とすると、この点についても、上告人は第一審で提出陳述した昭和五七年七月七日付準備書面二(1)に記載のとおり、その困難で効果のないことを述べている(なお、橋本取締役は既述のとおり、請川氏の妻の実父で、資金、経理両面の担当者である)が、原判決の判断はないままである。
第三 原判決は過失相殺の規定を類推適用するに当り、その解釈適用を誤つた違法がある。
1 すなわち、原判決の引用する第一審判決理由二3は、本件二隻の回航契約の詳細を認定している(同判決書一〇枚目表六行目から裏三行目)。それによると、合計金一六一〇万円の回航料金中、契約時計金三二二万円(受領済)、出航時計金四八三万円、到着引渡時計金八〇五万円の各支払いを受けることになつている。従つて、被上告人が右契約に従つたとすると、出航時には当然出航時の分を受領でき、できないとしても出航を見合わせるなどの方策がとられるのは通常であり、到着時分の不払いがあつても留置権等の債権確保方法があるため、結局回航料金債権が回収できないようなことは考えられない。その意味では、本件二隻についての損害は、仮りに上告人に監視義務違反があつたとしても、それとの間に相当因果関係がないというべきものであるが、その点はともかくとして、被上告人は右述の約定に従つた支払いを受けず、担保や保証を求めないまま、しかも、無線装置がないため、一旦出航すればシンガポールまで連絡がとれない状態で出航している(原審被上告会社代表者本人尋問の結果)。仮りに、原判決のいうように、回航業界は当時激しい過当競争にあつたとしても、裏を返えせば船舶輸出業界も不況であつたといえるから、それをもつていいわけにすることはできない。
2 本件は株式会社の取締役の第三者に対する特別の責任を追求する事案である。かかる厳しい責任を追求する者は自らもそれ相応の損害防止措置をとつたうえ、なおかつ防ぎ得なかつた損害につき責任を追求できると解するのが商法二六六条の三の法意にかなつた解釈というべきである。被上告人は、出航時の分を受領できないときは出航を見合わせるなど、極めて簡単な措置をとるだけで本件損害の発生そのものを防止できたのである。
以上の事情を考慮すると、本件では少なくとも右出航時の分金四八三万円以上の過失相殺がなされるべきであつた。しかるに、原判決は、被上告人が健和の信用状態などを調査しなかつたことや、前述の債権回収確保の措置をとらなかつたことを認めながら、右述の法解釈、適用を誤り、損害の発生と拡大につき加功度の不明確な一般不法行為と同様に、抽象的に一割をもつて相当とするとし、金一、二九三、二四八円を控除したにとどまつた(原判決理由三の(一))。
第四 原判決の引用する第一審判決には、原判決の訂正した分以外にも、特に重要な次の点につき真実に反する事実誤認があり、訂正されなければ正義に反するものと思われる。
1 片木アルミはその取締役松崎利治に船舶の買付業務に関与させたという点(第一審判決理由二2)
2 同人が本件二隻の回航契約に関与したという点(同理由二3)
3 上告人が右同人を通じて健和の代表者請川に本件二隻の輸出に伴う輸出先への回航に関する契約を被上告人と締結させたという点(前記第一の一1に引用する部分)
以上の誤認については、上告人の昭和五八年一月一三日付準備書面第一の三及び同年六月一六日付準備書面一において証拠に基き詳細に述べたとおりである。
4 上告人が松崎や浅野から毎月数回は健和の財務内容について報告を受けていたとの点(同理由二2)
右については前記一月一三日付準備書面第一の四に述べたとおりであり、その回数や内容につき誤認がある。